Tohoku Social Innovation Night
-映画で学ぶSDGsと社会課題(#こども、貧困・孤立編)-
開催レポート

「SENDAI SOCIAL SEED 2025」プロジェクトの一環として、8月5日(火)18時よりINTILAQ東北イノベーションセンター(仙台市若林区)にて、第1回「Tohoku Social Innovation Night -映画で学ぶSDGsと社会課題- 」を開催しました。
本イベントは5回にわたり、貧困や障害者と仕事、環境など毎回異なる社会課題をテーマとした映画の上映と、仙台・東北を舞台に活動する社会起業家の先輩をゲストにしたトークセッションの2部構成で開催します。映画を通じて社会課題への理解を深めるとともに、社会起業家のリアルな想いを共有し、社会課題を自分ごととして捉えるきっかけづくりを目的としています。
第1回のテーマは「こどもの貧困と孤立」。ドキュメンタリー映画『さとにきたらええやん(http://www.sato-eeyan.com/)』の上映と、こどもの居場所づくり・体験づくり事業等を展開する認定NPO法人STORIA 代表理事の佐々木綾子さんをゲストに迎え、STORIAの事業とその背景、活動への想いをお聞きしました。会場にはこどもの貧困と孤立に関心のある方や、学生を含む幅広い層の方々が集い、テーマに対する理解と共感を深める場となりました。
映画を入り口に、社会課題を身近に
第1部ではモデレーターである映画探検家・アーヤ 藍さんからの映画紹介の後に上映が始まりました。今回の作品は、大阪市西成区釜ヶ崎地区にある「こどもの里」を舞台にしたドキュメンタリー映画『さとにきたらええやん』。階段状になったINTILAQのイベントスペースを映画館に見立てて、参加者はリラックスしながら映画を鑑賞しました。
[上映映画]

さとにきたらええやん
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いつでもおいでや。
こどもも大人も集まる みんなの“さと”
大阪市西成区釜ヶ崎。“日雇い労働者の街”と呼ばれてきたこの地で38年にわたり取り組みを続ける「こどもの里」。“さと”と呼ばれるこの場所は、障がいの有無や国籍の違いに関わらず、0歳からおおむね20歳までのこどもが無料で利用することができます。学校帰りに遊びに来る子、一時的に宿泊する子、様々な事情から親元を離れている子、そして親や大人たちも休息できる場として、それぞれの家庭の事情に寄り添いながら、地域の貴重な集い場として在り続けてきました。
本作では「こどもの里」を舞台に、時に悩み、立ち止まりながらも全力で生きるこどもたちと、彼らに全力で向き合う職員や大人たちに密着。こどもたちの繊細な心の揺れ動きを丹念に見つめ、こどもも大人も抱える「しんどさ」と、関わり向き合いながらともに立ち向かう姿を追いました。
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監督・撮影:重江良樹
2015年/100分/日本
映画HP:http://www.sato-eeyan.com
「こどもの里(通称:さと)」の日常をありのままに映し出した映画からは、様々な困難を抱える親子に「さと」の職員たち、すなわち「第三者」が関わる姿が見えてきます。例えば、こだわりの強い5歳の男の子だけでなく、その育児に悩むお母さんへ寄り添う姿。障がいを持ち学校にうまく馴染めない中学生の男の子と家族を見守る姿。お母さんと離れて”さと”で暮らす高校生の女の子の卒業と一人立ちを応援する姿。こども達はもちろん親にとっても「さと」が大切な居場所であること、そして第三者が関わることの意味が伺えます。
いつも賑やかな雰囲気の一方で、施設代表の荘保さんを中心に職員の方々がこども達に深い愛情をもって優しく、時には厳しく接する場面もありました。本作は、監督が“さと”に5年間ボランティアとして関わった経験をもとに撮影を始め、完成に至ったものです。釜ヶ崎の街の様子や登場人物たちが近い距離間で丁寧に描かれており、当事者以外は知る機会の少ない日本の「こどもの貧困と孤立」の現状を知ることができ、深く考えるきっかけに繋がる作品です。
仙台の現場から-認定NPO法人STORIAの活動
上映終了後の第2部、社会起業家のゲストとして認定NPO法人STORIA(以下、STORIA)代表理事の佐々木綾子さんが登壇されました。
[社会起業家ゲスト]

佐々木 綾子氏
認定NPO法人STORIA 代表理事
グロービス経営大学院(MBA)修了(2017年)
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東日本大震災後、「こどもの貧困」の根本解決を目指し、2016年にNPO法人STORIAを設立。「困難の連鎖から愛情が循環する未来へ」をビジョンに掲げ、経済・精神的に困難の中にいる親御さんとこどもたちが自分らしく生きられ、幸せになること(ウェルビーイング)を心から願い、困難を抱えたこどものサードプレイス事業と保護者の相談支援事業を地域や行政、企業と協働で取り組んでいる。
2019年仙台市総合計画審議会委員、2023年公益財団法人仙台こども財団理事に就任。
同年グロービス経営大学院、第19回「グロービス アルムナイ・アワード」の「ソーシャル部門」受賞。
会社HP:https://www.storia.or.jp/
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STORIAでは、居場所づくりのためのサードプレイス運営や、困難を抱えるご家庭への相談支援など、「こどもの里」とも共通した取り組みを行っています。佐々木さんご自身も2年前「こどもの里」を訪問されたとのことです。
「映画の雰囲気そのままに、荘保さんや職員が親御さんとお子さんにしっかりと向き合われていました。親御さんが抱える問題がお子さんのしんどさに繋がるからこそ親御さんにも寄り添いが必要ですし、親とこどもの間に”さと”があるんだということを感じました。
こども達にたくさんの愛情を注ぎ、安心して過ごせる場所を創りたいという想いは私たちSTORIAと同じです。地域性はありますが、根本的な課題は仙台でも西成でも一緒だと感じます。
その一方で、来年の運営資金もどうしようか悩んでいるというお話をお聞きしました。何十年も悩みながら活動を続けている、長らくたくさんの親御さんとお子さんを支えていることにとても心が熱くなりました。」

(活動紹介中のSTORIA 代表理事・佐々木 綾子さん)
続いて佐々木さんより、仙台でのSTORIAの活動について紹介いただきました。
STORIAは『愛情が循環する未来へ』をVISIONに掲げ、ひとり親や様々な困難を抱える家庭とこどもをサポートするため2016年に設立されました。2つのアプローチと、「つながる」「見守り・支える」「支え続ける」の3つのステップで事業に取り組まれています。

(参考:STORIAの事業概要)
日本では、9人に1人のこどもが、2人に1人のひとり親家庭が相対的貧困にあります。佐々木さんは、STORIAが実施する相談支援事業でも、「明⽇⾷べるものがありません」「お金もなく、⽣きてるのが辛いだけです。」など深刻な相談が寄せられることも多いと言います。
「コロナ禍以降さらに問題は根強く、見えづらくなっていると感じます。孤立した子育ては頼れる人もおらず苦しい状況です。そこで私たちは、たくさんの愛情とこども達の多様な経験機会を創出できるようお手伝いをしています。」
STORIAが運営するサードプレイスでは、様々な困難を抱えるご家庭など自分たちの居場所を必要とするこどもたちに、一般的なご家庭で経験できるような、温かい食事や学びの機会を提供しています。こどもと温かい食事を囲んで団欒したり、普段外出が難しいこども達と近くの公園へ出かけることもあるそうです。昨年度からは仙台市と協働し、市内2ヶ所でサードプレイスを運営されています。
「大切にしているのはこどもの声です。例えば大きなプリンを食べたいというこどもがいたので、みんなで巨大プリンを作って食べたことがありました。自らの”やりたい”気持ちを認められ、実現できることを実感する。これを続けることで、自己肯定感や自己効力感などの非認知能力を育むことを大切にしています。」

(参考:STORIAでサードプレイス事業で大切にしている非認知能力)
リアルな挑戦や想いを共有-社会起業家との対話
続いて映画探検家のアーヤ藍さんをモデレーターに、佐々木さんとのトークセッションが行われました。
Q(アーヤ藍さん):”さと”の職員は絶妙な距離感で、親に成り代わるわけではなく第三者としてこども達に接していました。佐々木さんご自身は親とこどもの間でどういう距離感を意識されていますか?
A(佐々木さん):決して施しではなく人対人で向き合うことを大事に、スタッフやボランティアとともにたくさんの愛情を持って接しています。困難を抱えているご家庭のお子さんは、⾃分の気持ちを表現せず我慢していることも多くあります。こどもが素直に⾃分の感情を言えるよう、対話し、耳を傾けることを大切にしています。
Q:映画の中でも第三者の存在意義を感じる場面はありましたが、佐々木さんご自身は第三者が存在することの意味をどう考えますか?
A:頼れる人がいることが大事だと考えています。助けを求めた時に受け止めてもらえる、悩みを一緒に考えてくれる、大人もこどもも一人じゃないと感じられる存在に意味があると思います。そういった存在が心強く前を向くきっかけになると思っています。

(左から モデレーター・アーヤ 藍さん、STORIA 代表理事・佐々木 綾子さん)
Q:今の世の中は何か問題があった時に親御さんを責めてしまうような環境にあるとも感じます。映画でもありましたが、親御さんの持つ責任や不安に対して、社会のどんなサポートが必要だと思いますか?
A:例えばひとり親で育てていくには、就労しているご家庭でも経済的負担が大変です。その背景にあるのは社会保障やジェンダーの問題など、社会構造の中で生まれている社会課題だと思います。自分も社会を作っている一員として無関係ではないことを自覚し、一人ひとりが考えていくことが必要ですし、私たちの活動でその機会を増やしたいと思っています。
Q:自助・共助・公助という言葉がありますが、自己責任では解決できないところに対して、ここまでのお話は、地域や社会でみんなで助け合う「共助」のお話だったかと思います。一方で佐々木さんは公助すなわち行政と協働した支援もされていらっしゃいますよね。どのように協働されていますか。
A:当初は自主事業で始めましたが、活動の中で子育てに悩む親御さんから行政の支援制度の情報が届いていないなどリアルな声を聞き、課題を感じていました。そこで仙台市へ提案し、必要なご家庭へ情報と支援を繋ぎ届ける活動を、市民協働事業として実施しました。私たちの活動も市の施策としてより多くのこども達やご家庭を支援できるようになりました。行政と民間でできることを役割分担し進めたことで相乗効果も生まれ、仙台市とは良いパートナーを組ませてもらっていると感じます。
Q:映画の「こどもの里」は、約50年、こども達の支援を続けています。こども達に関わる活動は途中でやめることが難しいと感じますが、佐々木さんも設立から10年、ここまで長く続けられているのはなぜでしょうか?
A:現場で悲しいことや辛いことをたくさん見てきました。生まれた環境によってこども達の可能性が閉ざされることはとても悲しいことだと思います。ただ悲しみや怒りが原動力ではなく、このままにしてはいけない、愛情が循環する未来を創りたいと諦めずに活動を続けてきました。今では、プロボノ45名、ボランティア300名、寄付者1,000名を超えています。皆さんの声をお預かりして事業をしている感覚で、こども達や親御さんに一人ひとりの愛を届けることが励ましになっています。

(STORIAのVISION”困難の連鎖から愛情の循環へ”と想いを語る佐々木さん)
一人ひとりの小さな一歩が社会を変える
佐々木さんからこどもたちとのエピソードを交えながら参加者にメッセージをいただきました。
「サードプレイスの運営は今年で10年目です。先日、小学4年生の女の子から『”ただいま”ってここに帰ってくると、”おかえり”って言ってくれる仲間も大人達もいる。大変なこともあるけれど、ここでこどもでいさせてくれてありがとう』と言われ、本当に嬉しくなりました。一人でもそう感じてくれることが、この居場所を続けてきた大きな支えになっています。
活動の原点は『たった一人のためでも力になりたい』という想いでした。一方で社会の課題を生み出す社会構造から変える必要があることは、初めから強く意識していました。まだ答えは見つかっていませんが、歩み続けることで新しい挑戦が生まれています。一歩踏み出して良かったとあの頃の自分に言ってあげたいですし、皆さんにもお伝えしたいと思います。」
日本では、貧困を解決する明確な答えはまだ見えていません。それでも「答えのない道を歩むことで、見えてくるものがある」と佐々木さんは語ります。その力強い言葉には、私たち一人ひとりが小さな一歩を踏み出すことこそ、社会を変える始まりなのだというメッセージが込められていました。
次回は9月4日「障害者・働く」をテーマに開催します。開催テーマが気になる方も、社会課題に関心を持ちながら今回参加できなかった方も、ぜひ足をお運びください。

Tohoku Social Innovation Night -映画で学ぶSDGsと社会課題 第2回
テーマ:障害者・働く
2025年9月4日(木)18:00-20:30
上映作品:『フジヤマコットントン』
株式会社バンザイファクトリー 代表取締役 高橋和良さんをゲストに迎え、働くことの意味や多様性について考えます。
https://tsin07-02.peatix.com/
[モデレーター]

アーヤ 藍氏
映画探検家
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大学在学中に語学研修で訪れたシリアが帰国直後に内戦状態に。シリアのために何かしたいという思いから、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を行うユナイテッドピープル株式会社に入社。同社取締役副社長を務める。2018年に独立。映画の配給・宣伝サポート、映画イベントの企画運営、雑誌・ウェブでのコラム執筆などを行う。著書に『世界を配給する人びと』(春眠舎)。
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主 催:仙台市
運 営:一般社団法人IMPACT Foundation Japan(INTILAQ東北イノベーションセンター)
*本事業は、仙台市による「R7年度・社会起業家支援事業」として開催しています。